近年戦略的に取り入れる企業が増えてきた「ストーリーテリング」。アメリカのスーパーボウルのCMを見ると、さまざまな業種で「ストーリー」を語るものが増えています。直訳は「物語を語ること」ですが、ビジネスにおいては、実話、エピソード、逸話などすべてを意味しています。
アメリカの経営大学院でも授業でストーリーを取り上げる機会が増えているくらい注目を浴びています。
今回は「ストーリーテリング」の効果を検証するために、ある実験を行ったので結果を紹介します。
身近なストーリーテリングは、商品の「開発ストーリー」
BtoBでもブランディングは重要です。その企業がその商品サービスが、なんとなく好き・信頼できるという感覚は比較検討時はもちろん、導入後のLTVにも関わってきます。また、同時に新たな顧客の獲得にも繋がります。
なんとなく好き・信頼できるという感覚を強化する方法のひとつとして有効なのが、「商品のストーリー」。商品の背景にあるストーリーやドラマといった「コト」の部分に、人は愛着を感じるためです。ドラマ「下町ロケット」がビジネスパーソンの心を掴むのは、必死で難曲を乗り越える佃製作所の従業員の姿勢に感動するからです。
例えば、友人からもらったプレゼント。最も嬉しいと感じるのは、そのプレゼントを選んだ背景を聞いたとき。なぜ、そのプレゼントを選んだのかの背景を聞くと自分のために時間を費やしてくれたことや自分のことを考えてくれたことに共感や感動を覚えます。
例えば、パソコンのVAIO。ウェブサイトに「開発ストーリー」を掲載しています。開発ストーリーでは開発者の想いや並々ならぬ苦労が語られるため、それを知った人は、VAIOが単なるノートパソコンではない特別なものに見えるようになります。これがなんとなく好き・信頼できるという感覚に繋がります。
個人的に好きなのが、BtoCの事例である「エルメスの社史ストーリー」。私自身は、エルメスの良さをよく知りませんでしたが、「エルメスの道」という本を読んで一気に虜になりました。BtoBマーケターやウェブ担当者も一度は読むことをおすすめします。
生まれてくる商品には必ずストーリーがあります。ただ、このストーリーは誰かが言わなければ気付く術はありません。だからこそ、ストーリーはWEBコンテンツとして全面的に打ち出すべきです。重要なのはモノの背景にいる「人」、人による「血が通ったストーリー」を伝えてなんとなく好き・信頼できるというイメージを植え付けることなのです。
ストーリーテリング、マーケティング上の3つメリット
開発ストーリーのコンテンツを作成すると、必然的に企業や事業のミッション・ビジョンを遠からず伝えることになります。ミッション・ビジョンを物語調で語ると想いが込められます。単純に企業姿勢や商品のメリットをいくら声高に「当社はここがすごいのです」と叫んでも、伝わることは決して簡単なことではありません。
その点、開発ストーリーを物語として表現すること(ストーリーテリング)は、商品自体のメリットを伝える以上に、効果的な差別化に繋がります。
「使命、目的、役割、存在意義」などと訳される言葉です。企業経営においては、その企業が果たすべき「任務や使命」といえます。会社がその経営を通じて、何を目指し成し遂げたいかをあらわしたもので、このミッション・使命があるからこそ、企業としての存在意義があるといえるでしょう。
引用:ミッション・ビジョン(BIZHINT)
「目標、夢、志、方向性」などと訳されます。組織が目指す将来の理想の姿を表現するものです。ミッションで定められた存在意義に基づいて事業を行い、将来的に「こうなっていたい、こうしたい」という組織や社会の姿を具体的に示すものになります。
引用:ミッション・ビジョン(BIZHINT)
まとめると、開発ストーリーをコンテンツとしてWEBサイトに公開することで、3つのメリットを教授できます。
【顧客視点】企業や事業のミッション・ビジョンをストーリーテリングとして伝えることができる
ミッション・ビジョンに共感いただいた見込み客は、なんとなく好き・信頼できるというイメージを持つ。結果的に、効果的な差別化に繋がります。
【市場視点】業界内でソートリーダーシップのポジショニングを得られる
開発ストーリーのコンテンツは、自社にしかないたった一つのストーリーになります。内容によっては業界内でソートリーダーシップを取り、業界におけるポジショニングやブランドイメージが向上します。結果的に、異業種との提携や協業の際にも優位に働くことになる可能性が高まります。
【自社視点】社員の士気が高まる
創業者の熱い想いは社員にも伝わります。しかしながら熱い想いを社員に浸透することは簡単ではありません。特に大企業の場合、様々な商品を扱っていて役割ごとに部門が分かれているため、新製品が生まれた背景や開発者の想いが営業現場まで浸透しないことが多々あります。すると、営業は商品のメリット、仕様や価格で商談せざるを得ません。開発ストーリーを読んでいれば、商談の際に話のネタにすることで、効果的な差別化ができる可能性があります。
開発ストーリーはリード獲得に寄与するのか?実証実験の結果を公開
昨年、国内初のある商品を発売しました。この商品を企画し苦労に苦労を重ねて世の中に出したという自分自身の強い想いもあり、開発ストーリーのWEBコンテンツを実験的に公開しました。
■検証の概要
検証期間:約9ヶ月間
サイト訪問者数(ユニークユーザー数):約1万人/月
■ 商品のページ構成
下記5つのページにわけて、それぞれのページに同じCTAを設けました。
- 概要ページ
- 特長ページ
- 使用方法ページ
- 開発ストーリーページ
- ランディングページ
■CV設定
購買プロセスに沿って、ステージ別にCVポイントを設けました。
- 情報収集ステージのユーザー向け、紹介資料ダウンロード
- 比較検討ステージのユーザー向け、資料請求
■実験結果 -各ページのリード獲得数-
合計(紹介資料ダウンロード数と資料請求数の合計)
ページ種類 | CV率 |
概要ページ | 2.7% |
特長ページ | 2.0% |
使用方法ページ | 1.3% |
開発ストーリーページ | 3.6% |
ランディングページ | 0.9% |
個別のCV率 - 情報収集ステージ層のCV率(紹介資料ダウンロード数)-
ページ種類 | CV率 |
概要ページ | 0.7% |
特長ページ | 1.1% |
使用方法ページ | 0.9% |
開発ストーリーページ | 1.0% |
ランディングページ | 0.2% |
個別のCV率 -比較検討ステージ層のCV率(資料請求数)-
ページ種類 | CV率 |
概要ページ | 2.0% |
特長ページ | 0.9% |
使用方法ページ | 0.4% |
開発ストーリーページ | 2.6% |
ランディングページ | 0.7% |
開発ストーリー実証実験の考察
・開発ストーリーページは、閲覧ユーザー数やPV数だけで見ると概要ページや特長ページより少ないが、CV率は最も高い。従ってリード獲得に寄与していると言える。
・開発ストーリーページは、情報収集ステージ層より比較検討ステージ層の見込み客に刺さっている。具体的に比較検討する際に、企業や商品を信頼して良いかを確認していると推察できる。
・開発ストーリーページの閲覧ユーザー数やPV数は、決して多くはない。その意味では補助的なコンテンツである。ただし、興味を持った見込み客には刺さっており、実際に良質なリードが取れる傾向がある。
※上記の実験結果の表以外のことにも触れていますが、公開できない内容もあるためご容赦ください。
ストーリーテリングを学ぶ良書
ストーリーとしての競争戦略
20万部突破のロングセラー。ブランディングはストーリーなしでは成り立たないということを教えてくれます。世界中の事例が豊富に掲載されています。
エルメスの道
プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える
まとめ
開発ストーリーのWEBコンテンツはリード獲得に寄与するのか。検証前の仮説では一定層には評価され意味があるのではと考えていました。実験で明らかになったのは、比較検討ステージの層で効果的な差別化コンテンツになり得ること。良質なリードが取れることの2点です。
つまり、開発ストーリーのWEBコンテンツは、MAツールのシナリオに組み込み、メール通知などの機能を使用してインサイドセールスに繋げるなど、様々な施策に活用できる可能性があります。
開発ストーリーは有効です。しかし、これはリード獲得に限った話。商談化した後に複数の決定者が関わるBtoB商材の場合は、あくまで補助的なWEBコンテンツ(小ネタ)。最終的に選ばれる要因の1つとしてはなりにくいことは忘れずに。
従って、余裕があれば公開することをおすすめします。
以上、「【事例】BtoBで開発ストーリーテリングはリード獲得に寄与するのか?実際に検証してみた」の記事を紹介しました。
BtoBマーケターの参考になれば幸いです。
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