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人口8万人の陸の孤島に、なぜ年間60万人以上の外国人観光客が訪れるのか -飛騨高山の奇跡

私は、18歳まで飛騨高山で生まれ育ちました。今は東京で働いていますが、飛騨高山で育ったことを誇りに思っています。飛騨高山出身の人は、「どこ出身?」と聞かれると「飛騨高山」と答えます。岐阜県ではないのです。

横浜出身の人が、出身は神奈川と言わないような、
神戸出身の人が、出身は兵庫と言わないような、
そんな世界観。

自分の中ではブランドのような存在になっています。

そんな飛騨高山は、地方の田舎都市にも関わらず、人口の6倍、年間60万人以上の外国人が訪れます。なぜ、飛騨高山ブランドができたのか気になり調査し、まとめました。


飛騨高山、そこは陸の孤島

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そこは、日本一、面積が広い市区町村。
東京都にほぼ匹敵する広さ。

飛騨高山はとにかく遠い。東京から4.5時間、大阪から3〜4時間、名古屋から2.5時間と、日帰りで行きたいとは思わない距離感。


人口の10人に1人が牛

- 人:86,000人
- 牛:12,000頭(肉用が9割)

日本一の広さなのに、人口は86,000人だけ。
牛たちが伸び伸び暮らしている。
面積の92%が森林。
ちなみに、人の身体の体重の60%は水分。これを遥かに超える。

有名なのは、歴史的文化資源と自然

飛騨高山は、江戸時代の文化資源が多く現存している。

古い町並み(国指定重要伝統的建造物群保存地区)

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日本三大美祭り、「高山祭り」

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日本で唯一現存する江戸時代の役所、「高山陣屋」

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日本三大朝市

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朝市は、昭和初期から市民の台所。変わらない風景。

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出典:飛騨高山宮川朝市協同組合

日本昔ばなしの合掌造り、飛騨の里

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ご当地の食べ物

絶品の飛騨牛。食べたいと思うブランド牛ランキングで4位にランクイン

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朴葉味噌焼き

朴葉みそ-1-scaled

高山ラーメン

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ドラマ・アニメの聖地としても有名

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「君の名は」の主人公「三葉」らが話していた言葉は飛騨弁。


そんな陸の孤島に、人口の6倍、年間60万人以上の外国人観光客が訪れる

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出典:日光市役所ウェブサイト

外国人観光客数は、原爆ドームがある広島市、富士山がある富士河口湖町、東京から近い箱根町に次ぐ数字。陸の孤島なのに。

ただ、観光客数が多いだけではない。

トリップアドバイザー「外国人に人気の日本のレストラン2017」トップ30のうち、高山市内のレストランは、なんと6件がランクイン。
たかだか、人口86,000人の地方都市なのに。

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もはや奇跡としか言いようがない





飛騨高山の奇跡は、陸の孤島という「制約と誓約」から生まれた

繰り返すが、飛騨高山はとにかく遠い。東京から4.5時間、大阪から3〜4時間、名古屋から2.5時間と、日帰りで行きたいとは思わないレベル。

しかも、制約という名の悪条件が積もり積もっている。

1. 冬は大雪で閉ざされる
2. 大都市から遠すぎる
3. 自然しかない
4. 高山市だけではインパクトが薄い

1. 冬は大雪で閉ざされる制約

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高山市がある飛騨地方は雪国。飛騨高山から車で30分程度で行ける世界遺産の白川郷は、積雪が2mを超えることも珍しくない。

飛騨高山は、日本を代表する山々に囲まれている。

高山から東へ行くと長野県松本市。北アルプスの壁に阻まれ、昔は冬になると人の往来ができなかった。

北には富山県。海産物は富山からブリ街道と呼ばれる道を通り、飛騨高山に来るがこの道も山を超えなければならない。

西には金沢市。日本三名山の1つ、白山連峰がそびえ立っていて冬は立ち入ることができない。


だから、冬は保存食に凝る

飛騨の郷土料理の1つに「漬物ステーキ」がある。
漬物を鉄板で焼いて、卵でとじるだけというシンプルな料理。

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漬物を焼くだけなのに、ステーキと言い切るセンスに脱帽する(笑)

もともとは、極寒で凍りついた漬物を解かすために、囲炉裏で朴葉に載せて焼いた料理法が始まりと言われている。

そして、ステーキと呼ばれているのは、それなりの理由がある。
雪国で隣県との交流が途絶えるため、物資が入ってこない。そうなると、夏〜秋の間に採れた食材で冬を凌ぐしかない。(東北地方などの雪国も保存食の名産品があるが、同じ理由と思われる)

食べるものが不足しているが、少しでも贅沢さを味わいたい。
昔の人はそんな思いから「漬物ステーキ」と名付けたのかもしれない。
(名前の由来は諸説ある)

漬物ステーキの他にも、朴葉味噌焼きやみたらし団子、赤かぶ、地酒などのグルメが独自で発展したのは、厳しい冬を乗り越えなければならない制約から生まれた産物かもしれない。


2. 大都市から遠すぎる制約

また繰り返すが、飛騨高山はとにかく遠い。東京から4.5時間、大阪から3〜4時間、名古屋から2.5時間と、日帰りで行きたいとは思わない。


だからこそ、早くから海外に目を向けたのかもしれない

高山市、海外市場攻略の略歴
- 1960年:アメリカのデンバー市と姉妹都市提携
- 1986年:国際観光都市宣言
- 1996年:「バリアフリーまちづくり」を提唱
     パンフレットやマップ、ホームページに外国語を表記する
- 2000年:行政と民間で負担金を出し合い「飛騨高山国際誘客協議会」結成
- 2011年:海外戦略室(現在・海外戦略部)を設立
- 2010年代:飲食店や店舗の多言語化を市が補助金事業として支援

略歴だけをみると、形作りが上手なように見えるが、実際は海外の顧客理解に努め、徹底的に実行していることに気づく。
以下に、具体例を2つ紹介しよう。

(1) 市長自らトップセールス。民間企業と共に切り拓く

エンドを制し、チャネルを制し、ロビー活動で変えていく。これを市長自らトップセールスで仕掛ける。民間企業の営業・マーケティング活動と同じ。

- エンドユーザーを抑える
 - 海外旅行博・見本市への参加
- チャネルを抑える
 - 誘客効果の高い海外メディア・旅行会社
 - 航空会社への直接的なPR
 - 駐日外国公館等へのPR
- ロビー活動を抑える
 - 海外駐在員の派遣(フランス、香港、ベトナム)
 - JNTO(日本政府観光局)本部への職員派遣

ホーチミン、ハノイにある大手旅行会社や航空会社へのセールス訪問

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中国 昆明市の副市長と面談

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台北国際旅行博に出典

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高山市のトップセールスについては、市の公式サイトで公開されている


(2) 外国人にヒアリングし、求められることに応える

パンフレットは6言語対応、しかも内容が国別に異なる

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出典:https://www.city.takayama.lg.jp/shisei/1005322/1014602/1002531.html

ヨーロッパの人は日本の 古い町並みや里山の風景を好むが、韓国人は山登りに興味を持つ。一方で、タイ 人は四季を彩る桜や雪景色を見たい人が多いとのこと。

このパンフレット、実は3種類ある。高山に来る前の旅行者を対象に海外で
配布するもの1種類、高山に来ている旅行者を対象に市内で配布するもの
2種類。海外で配布しているものは、写真メインで対象国ごとにデザインや内容を変えている。きめ細かくニーズを把握する姿勢を見習いたい。


しかも、パンフレットだけではない。

飛騨高山の観光公式サイトは、驚異の12言語対応

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英語、中国語、韓国語はもちろん、フランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、タイ語、ロシア語…とさまざまな言語に対応している。

さらに、ただ言語対応しているわけではない。中身のコンテンツの見せ方、見せる順番を変えているのだ。例えば、欧州人は体験できるサービスが人気なので、ページ内の目立つ部分に配置する。中国人の場合は娯楽をメインに見せるなど。

民間企業のグローバルサイトで、国によってコンテンツの見せ方を変えているサイトがいくつあるだろうか。


あの京都ですら、6言語・・・

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調べきれなかったが、12言語対応は日本で一番ではないかと思う。


3. 自然しかない制約

飛騨高山は、日本一面積が広い市だが、面積の92.1%は森林で占められている。歴史的建造物はあるが、それ以外は自然しかないのだ。

だから、体験に力を入れる

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ただ町をサイクリングするだけというと聞こえが悪いが、サイクリング途中で日本の原風景を感じたり、畑で野菜を収穫している地元の人に声をかけられたり、飛騨牛を間近で見たり・・・。

私自身もこのツアーに参加したことがあるが、一期一会の体験に心が踊ったことを今でも覚えている。
里山サイクリング


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朝市を散策しながら材料を購入。クッキングスタジオへ移動し、和食の基本である出汁をとり、高山味噌を食べ比べ、各自が気に入った味噌で自分だけの味噌汁を作る。その他、さまざまな郷土料理を作る体験施設。
GREEN Cooking Studio


4. 高山市だけでは推しが弱い制約

アクセスにハンディがある高山市だけに、外国人にピンポイントで足を運んでもらうのは難しい。この制約を克服するために、近隣観光地と組むことを進めた。いわゆる協業だ。

だから、点を線に変える独自のプロモーションを展開

- 海外の商談会では、高山市のパンフレットだけでなく、近隣観光地(松本、金沢、白川郷)のパンフレットも一緒にもっていく
- 魅力的な観光地をつなぎ、コース化する

言われてみれば当然のように感じるが、なかなか実行に移せないのではないか。

そして、「サムライルート」が生まれた

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サムライルートは、ヨーロッパの旅行会社によって命名された訪日外国人向けの旅行コースの1つ。
(サムライルートの定義は、このコースを紹介している団体やWebサイトによって若干揺らいでいるが、高山〜白川郷〜金沢は必ずルートに入っている)

中華圏向けには、「昇龍道(ドラゴンルート)」も

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昇龍道(ドラゴンルート)を発案したのは能登半島・和倉温泉の老舗旅館多田屋の会長・多田空仁彦さん。能登半島の形が「龍の頭部」に似ていることに発想を得たのがきっかけ。ドイツのロマンチック街道のような、知名度の高い観光ルートの幹に育てたいとの並々ならぬ思いがあるとのこと。



感染症が落ち着いたら、サムライルートを満喫しては?

築300年!世界遺産の合掌造りに泊まることができる

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あまり知られてないが、世界遺産の白川郷の合掌造りに宿泊ができる。極上の非日常体験が味わえて、1泊2食付きで10,000円程度と良心的な価格設定が魅力的。

私も何年か前に泊まったことがあるが、飛騨牛や郷土料理を食べながら女将さんと話す夕食、朝の爽やかさはいまでもハッキリと記憶に残っている。(注意点は、家の中でもイモリなどの虫を見かけること。オープンに作られている合掌造りならではと思って許してあげてほしい)

宿泊予約は、一般社団法人 白川郷観光協会の公式サイトが便利。


まとめ

飛騨高山。人口8万人の陸の孤島に、なぜ年間60万人以上の外国人観光客が訪れるのかを探ったら、強みを活かし弱みをカバーするマーケティング戦略と、徹底的な実行部分が垣間見えた。

「飛騨高山」というブランド力は、一朝一夕に生まれたものではなく、年輪のように積み重なって成り立っているものだと。

今回は詳しく触れなかったが、高山市長は民間企業の社長、高山市民はその企業の社員のような一体感を感じた。このあたりは、また別の機会に続きを書こうと思う。


参考文献:
高山市の海外戦略(首相官邸サイト)
飛騨・高山に人口5倍の外国人が訪れる理由 インバウンドの軌跡(事業構想)
高山市の外国人宿泊客、過去最高の61万人(観光経済新聞)






読んでいただきありがとうございます。拙い文章で恐縮ですが、日頃の気づきをシェアしていきたいと思っています。 サポートいただけると嬉しいです!